寒い県ほど脳卒中が多い?
気温だけでは説明できない
寒いと血圧が上がる。なら寒い県ほど脳卒中も多そうです。 ところが北海道まで入れると、その分かりやすい話は崩れます。寒さ以外の条件も見ないと説明できません。
食塩、喫煙、医療、年齢構成なども重なります。
「寒いほど多い」なら、北海道の数字が合わない
脳血管疾患・人口10万人あたり。
寒冷地でも値はそろいません。塩分、生活習慣、住宅環境なども関わります。
まず「死亡数」ではなく、年齢調整死亡率を見る
高齢者が多い県は、単純な死亡率が高くなりやすくなります。そこで厚生労働省は、都道府県の年齢構成をそろえて比較できる「年齢調整死亡率」を公表しています。
脳血管疾患の地域差を見るなら、人口の高齢化そのものをできるだけ取り除いた、この指標のほうが適しています。
全国:男性93.8 / 女性56.4
岩手:147.2 / 84.3
秋田:124.1 / 78.2
栃木:119.7 / 74.5
青森:116.7 / 69.7
北海道:88.9 / 56.6
東北に高い県は並ぶ。ここは事実
2020年の全国比較では、男性は岩手、秋田、栃木など、女性は岩手、秋田、福島などが高い側でした。北日本に高率県が多いという印象には、統計的な背景があります。
だから「寒さが関係していそう」と考えること自体は不自然ではありません。ただし、ここから「外気温が低いほど死亡率が上がる」と一気に結論づけると、データを読みすぎます。
北海道が、単純な「寒いほど多い」を崩す
北海道の2020年年齢調整死亡率は男性88.9。全国93.8より低い値です。女性は56.6で、全国56.4とほぼ同じでした。
気象庁の1991〜2020年平年値では、札幌の1月平均気温は-3.2℃。一方、男性の脳血管疾患死亡率が高い栃木県の代表観測地点・宇都宮は2.8℃です。
札幌:-3.2℃
宇都宮:2.8℃
もちろん、札幌の気温を北海道全体、宇都宮を栃木県全体の気候だとは扱えません。それでも「寒い順=脳卒中死亡率の高い順」ではないことは確認できます。
寒さがリスク要因の一つであることと、都道府県の死亡率順位を外気温だけで説明できることは別です。
寒さ以外に、塩分なども一緒に動いている
2024年の年齢調整済み食塩摂取量は、秋田県で男性11.7g・女性9.8g、岩手県11.0g・9.7g。一方、北海道は10.1g・8.2gでした。
秋田:男性11.7g / 女性9.8g
岩手:男性11.0g / 女性9.7g
北海道:男性10.1g / 女性8.2g
全国:男性10.5g / 女性8.9g
東北の高率県では、寒さだけでなく食生活も同時に違います。さらに喫煙、肥満、飲酒、医療へのアクセスなども混ざります。
これらを調整しない県比較では、「寒さだけの効果」を取り出せません。
同じ寒冷地でも、家の中の寒さは違う
同じ外気温でも、住宅の断熱、暖房の使い方、浴室や脱衣所の室温で、体が受ける寒さは変わります。
北海道のような寒冷地では、厳しい冬を前提に住宅や暖房が設計されている場合があります。一方、比較的温暖な地域でも住宅内が冷えることがあります。
県の年平均気温や1月気温だけでは、住民が実際にどれだけ寒冷曝露を受けているかまでは分かりません。
2010年→2020年、全47都道府県で死亡率は低下
厚生労働省によると、脳血管疾患の年齢調整死亡率は2010年から2020年にかけて、男女とも全47都道府県で低下しました。
10年間で日本の気候分布が丸ごと別物になったわけではありません。それでも死亡率が全国で下がったという事実は、医療、血圧管理、生活習慣など、気温以外の条件が重要であることを考える材料になります。
ただし、これだけで「寒さは無関係」と逆方向へ飛ぶこともできません。
街選びなら、「寒い県か」より冬の住環境を見る
健康面で寒さを気にするなら、県名だけで候補を落とすより、実際の住まいを見るほうが生活に近づきます。
断熱性能はどうか。脱衣所や浴室が極端に冷えないか。雪の日でも受診できる交通があるか。冬でも買い物や運動ができるか。
「北海道だから危険」「南だから安心」のような地図ではなく、冬の住宅と生活圏まで見る。それが街選びでは実用的です。
どう検証した?
厚生労働省「令和2年 都道府県別年齢調整死亡率」から、脳血管疾患の2020年男女別・人口10万対の年齢調整死亡率と順位を確認しました。気温は気象庁の1991〜2020年平年値から札幌・宇都宮の1月平均を例示し、食塩摂取量は2024年国民健康・栄養調査の年齢調整値を使いました。観測地点の気温と県死亡率を直接の因果推定には使っていません。
使ったデータ
- 厚生労働省「令和2年 都道府県別年齢調整死亡率の概況」脳血管疾患の都道府県別年齢調整死亡率。男性全国93.8、女性56.4など。
- 厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査」都道府県別の年齢調整済み食塩摂取量。
- 気象庁「札幌 平年値」1991〜2020年。1月平均-3.2℃。
- 気象庁「宇都宮 平年値」1991〜2020年。1月平均2.8℃。
判定:寒冷地域に脳血管疾患死亡率の高い県はありますが、「寒い県ほど多い」という単純な順位関係は支持しません。寒さ、食塩、住宅、生活習慣などを分けて見る必要があります。