京都人は本当に遠回し?
京ことばと県民性を分けて考える
京ことばに婉曲表現があることと、「京都人は遠回しな性格だ」ということは同じではありません。 言い回しとして研究できる文化と、個人の性格評価を分けると、この通説の輪郭が見えてきます。
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「言い方」と「性格」を分けて検証します。
京ことばが遠回しでも、府民全員が遠回しとは限らない
言葉の文化は研究されている。でも府民全体の人格差までは測っていません。
京都市域などを対象に実際の研究あり。
全国同条件の代表比較は確認できない。
地域文化としての特徴と、住民一人ひとりの人格特性を分けます。
まず、「京ことばの婉曲表現」は研究されている
国立国語研究所の文献データベースには、2011年の論文「京ことばの婉曲表現に関する一考察」が登録されています。副題は「中京区東部区域を中心に」。京ことばの会話展開や婉曲表現の使われ方を扱った研究です。
テーマ:京ことばの婉曲表現
対象:京都市中京区東部区域を中心とした言語文化
発表:2011年・『比較文化研究』96号
つまり「京都の遠回し表現なんて全部ネットの作り話」と切り捨てるのも正確ではありません。
近畿方言の「配慮表現」を比べた研究プロジェクトもある
2015〜2017年には、科学研究費による「近畿方言における配慮表現の研究」が行われ、大阪市域、京都市域、淡路島、新宮・熊野市域などを対象に研究成果報告書がまとめられています。
相手への配慮をどう言葉にするかは、ちゃんと方言研究のテーマになっています。
どんな表現を使うか、どう配慮を示すかを調べることと、「京都人は性格的に遠回し」と判定することは別です。
一番飛びすぎるのは、「言葉づかい」から「性格」へ進むところ
ある地域で婉曲な言い回しが使われることと、その地域に住む全員が遠回しな性格であることは同じではありません。
話し方は、相手との関係、年齢、場面、世代、仕事、家庭環境によって変わります。京都生まれでも率直に話す人はいるし、東京生まれでもかなり婉曲に断る人はいます。
「地域の言語文化」と「個人の人格特性」を同じ箱に入れると、県民性のステレオタイプになってしまいます。
さらに、研究対象は「京都府民430万人」ではない
京ことば研究が扱うのは、京都市の特定地域や特定の話者・場面などです。京都府全域には北部も南部もあり、世代も生活圏も違います。
「中京区東部で確認された言語現象」から「京都府民全体の性格」へ広げるには、全国同条件の大規模比較が必要です。
研究があること自体を根拠に、京都府民全員へラベルを貼るのは研究の射程を超えています。
「ぶぶ漬け」の話も、京都人全体の証拠にはならない
有名な言い回しやテレビ・SNSのエピソードは、とても記憶に残ります。ただし、面白い例ほど拡散されやすく、普通の会話は話題になりません。
100件の「京都らしい遠回しエピソード」が集まっても、それは無作為抽出された日常会話100件ではありません。
ネット上の例文集から「京都府民の何%が遠回しか」を計算することはできません。
本当に比較するなら、同じ場面を全国の人に出す
「遠回し度」を県比較したいなら、同じ実験条件が必要です。
場面:誘いを断る、お願いを断る、苦情を伝えるなどを統一
対象:各地域から同じ年齢構成で無作為抽出
評価:直接表現・婉曲表現の選択率を同じ基準で採点
調整:年代、性別、職業、居住年数などをそろえる
ここまでやって初めて「京都の回答者は、他地域より婉曲表現を選びやすい」と数量的に言えます。
では「京都らしさ」は存在しないのか?
そこまで言う必要もありません。方言や話し方は地域文化の一部です。京ことばの言語研究が積み重なっていること自体、地域固有の表現文化が研究対象になるほど豊かだということです。
ただし、「文化として特徴的」と「住民全員がそういう性格」は違う。この線を守れば、京都らしさを面白く語りながら、ステレオタイプにもなりません。
住むなら、「京都人は遠回し」より人との距離感を見る
京都へ住むかを考えるとき、「京都人は遠回しだから怖い」と県民性で判断するより、実際の生活圏や人間関係を見るほうが役に立ちます。
近所づきあいが濃い地域か、学生や転勤者が多い地域か、昔からの住宅地か。京都市内でも地域によって雰囲気は違います。
街との相性は、テレビで作られた県民キャラより、自分がどんな人間関係の距離感を心地よいと感じるかで考えるほうが現実的です。
どう検証した?
国立国語研究所の日本語研究・日本語教育文献データベースで「京ことばの婉曲表現に関する一考察」を確認し、国立国会図書館・CiNiiで科研費研究「近畿方言における配慮表現の研究」の京都市域調査編などを確認しました。一方、京都府民と全国他地域を同一条件で無作為比較し「遠回し度」を府県ランキング化した代表性のある公的統計は確認できませんでした。
確認した資料
- 国立国語研究所 文献データベース「京ことばの婉曲表現に関する一考察」中京区東部区域を中心に京ことばの婉曲表現を扱った2011年の論文。
- 国立国会図書館「近畿方言における配慮表現の研究」科研費による研究成果。大阪市域、京都市域、淡路島、新宮・熊野市域などを対象。
- CiNii Books「近畿方言における配慮表現の研究」京都市域調査編を含む研究成果報告書の書誌情報。
- 京都産業大学「日本語の和らげ表現」遠回り型など、日本語一般の和らげ表現を扱う研究。
判定:京ことばの婉曲・配慮表現は研究対象として実在します。ただし、「京都府民は他県より遠回し」という住民全体の性格差までは現在の資料から結論づけません。