医師が多い地域ほど健康?
医師数と平均寿命で検証
医師が多ければ長生きできそうですが、データはそこまで単純ではありません。 47都道府県を比べると、医師数と平均寿命の関係は男女で違います。
所得、生活習慣、年齢構成など多くの条件が重なります。
女性では、医師が多い県ほど寿命も長い傾向
男女で強さがかなり違います。
2020年の人口10万人あたり医師数 × 2020年平均寿命。県平均の単純相関です。
まず、年をそろえて47都道府県を比べる
2020年の医療施設に従事する医師数は、全国で人口10万人あたり256.6人。最も多い徳島県は338.4人、最も少ない埼玉県は177.8人で、約1.9倍の差があります。
同じ2020年の都道府県別生命表と対応させて、47都道府県のPearson相関係数を計算しました。
男性: r = +0.17
女性: r = +0.50
対象:47都道府県(n=47)
比較年:2020年
男女でかなり違います。男性では医師数と平均寿命の並びは弱く、女性では医師数が多い県ほど平均寿命も長い傾向が比較的はっきり出ています。
女性+0.50は、無視できない数字
都合のいい県だけを抜き出すのではなく、実際の数字も見ます。
徳島:338.4人 / 81.27年・87.42年
京都:332.6人 / 82.24年・88.25年
岡山:320.1人 / 81.90年・88.29年
滋賀:236.3人 / 82.73年・88.26年
埼玉:177.8人 / 81.44年・87.31年
京都や岡山のように医師密度が高く、女性の平均寿命も長い県があります。一方、滋賀は医師密度が全国平均を下回りながら、男性の平均寿命が全国1位、女性も2位です。
だから「医師が多ければ必ず長寿」ではありません。それでも、女性で出た+0.50という相関まで消してしまうのは、データの読み方として不公平です。
では、医師が多いから女性は長生きする? そこまでは言えない
相関があることと、原因であることは別です。医師が多い地域には大学病院や大規模病院が集まっていることがあります。都市の規模、所得、予防医療、喫煙や食生活、職業、交通など、平均寿命と関係しうる条件も同時に違います。
今回の計算では、そうした条件を調整していません。女性の相関がなぜ男性より大きいのかも、この2つの統計だけでは分かりません。ここで理由を作ってしまうと、検証ではなく物語になります。
「女性では県別の医師密度と平均寿命が一緒に高くなる傾向がある」までは言えます。「医師数が女性の寿命を延ばした」と因果の向きを決めるには、別の分析が必要です。
医師が多くても、家から遠ければ通いにくい
この統計は、医師を主な従業地で数えています。県内に医師が多くても、大病院や大学病院のある都市へ集中していれば、郊外や山間部からの通院は別問題です。
また、内科、整形外科、産婦人科、小児科、精神科など、必要な診療科は人によって違います。医師総数が多くても、自分が必要な医療へすぐ届くとは限りません。
逆に県平均の医師密度が低くても、駅の近くに診療所と総合病院がそろっている生活圏なら、日常の受診はしやすいことがあります。
住む場所を選ぶなら、「人数」から「通える医療」へ
街選びで知りたいのは、県に医師が何人いるかより、病気になった日に自分がどう動くかです。
徒歩圏にかかりつけ医を持てるか。総合病院へ公共交通で行けるか。専門診療が必要になったとき何分かかるか。車を手放した後も通えるか。夜間・休日の受診先はあるか。こうした条件のほうが、生活の安心に近づきます。
人口10万人あたり医師数は地域医療の厚みを見る入口として有用です。ただし、住む街の評価では、施設の位置と交通を重ねて見る必要があります。
今回の検証で、言えること・言えないこと
言えること:2020年の都道府県単純比較では、医療施設従事医師数と平均寿命の相関は男性で弱く、女性で中程度の正相関がありました。
言えないこと:医師を増やせばその分だけ寿命が延びる、女性だけが医師数の恩恵を受ける、といった因果関係はこの分析からは分かりません。
「医師数だけで健康度は決まらない」はその通りです。ただし、それは「医師数と健康に関係がない」という意味ではありません。
どう計算した?
厚生労働省「令和2年 医師・歯科医師・薬剤師統計」の都道府県別・人口10万人あたり医療施設従事医師数と、「令和2年 都道府県別生命表」の男女別平均寿命を47都道府県で対応させ、Life Fit JapanがPearsonの相関係数を計算しました。順位相関(Spearman)でも男性+0.16、女性+0.48で、方向はほぼ同じでした。重み付けなし、交絡要因の調整なしの地域単位分析です。
使ったデータ
- 厚生労働省「令和2年 医師・歯科医師・薬剤師統計」医療施設に従事する人口10万人あたり医師数。2020年12月31日現在。
- e-Stat「令和2年 医師・歯科医師・薬剤師統計」都道府県別の人口10万人あたり医師数を確認できる政府統計。
- 厚生労働省「令和2年 都道府県別生命表」男女別の都道府県平均寿命と生命表の作成方法。
判定:「医師が多い地域ほど住民は健康」は、平均寿命だけを使って一言で○×を付けられません。女性では中程度の正相関が見られましたが、因果関係や健康全体を示す分析ではありません。